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気まずそうな学友をよそに。
「あら和樹、立ち聞きなんてお里が知れるわね」
僕を敵意たっぷりににらんだ貴恵が
「でもせっかく来たんだからなにかして私たちを楽しませなさいよ」
急に優しい声音で告げた。
これは今もつづく。
神託――。
僕は壁に立てかけてあったバイオリンを手にとると。
「では、お姉様のために――」
レクイエムを
奏でてやる。
無知な学友が僕に熱いまなざしを送る中。
「やめて!辛気臭い。あんたって本当に疫病神ね」
貴恵は迷惑そうに手を打った。
「才能もないくせに音楽なんて生意気――そうね、いらっしゃい」
「はい」
貴恵は僕を呼びつけると。
自分の胸元に結んでいた黒いリボンをほどいた。
「膝をついて後ろを向いて」
「貴恵さん……?」
目を丸くする友人たちには一瞥もくれず。
「あんたにぴったりの余興を思いついたわ――」
悪戯に微笑んで。
足元に跪いた僕の両手を。
自分のリボンで後ろ手に縛りあげた――。
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