episode 1 すべては戯れ

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アフタヌーンティーの銀食器に並ぶ色とりどりのケーキの中から。 クリームたっぷりのケーキを皿に盛ると 「さあ、お食べ」 貴恵は後ろ手に縛られた僕の鼻先にそれを突きつけた。 友人たちの驚愕と好奇の目。 僕は上目遣いに貴恵を見上げる。 「どうしたの?」 貴恵は指先で優しく僕の前髪を斜めにすいた。 僕は貴恵を見上げたまま――。 唇と。 鼻先と。 頬まで。 たっぷりとクリームにまみれて、ケーキに食らいついた。 「いい子ね――野良犬みたい」 悪意に満ちた貴恵のまなざし。 僕のシャツの胸元に――。 ケーキのフルーツソースがだらしないシミを作ってゆく。 好奇の目で見ていた貴恵の友人たちからは、甘美なため息がもれ始めた。 その時――。 「な、何をなさってるんです!」 新しい紅茶ポットを持ってやってきたこの家の執事長、中川の声がテラスに響いた。 「和樹坊ちゃん!貴恵様なんてことをっ……」 貴恵はとがめられ、僕の両腕はただちにほどかれた。 「戯れ――ただのお遊びよ。ねえ和樹?」 貴恵は悪びれずそう言うと、退屈そうに長い髪をかき上げた。 「ごちそう様でした――お姉様」 僕はナプキンで口元をぬぐって、足早にテラスを後にした。
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