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部屋に戻る廊下の先で――。
「ずいぶんな格好だな」
貴恵から開放された僕を見つけたのは
「征司お兄様……」
悪魔の双生児の片割れだった――。
切れ長の瞳が僕を捕らえて妖しく光る。
「大事な来客があるんだ。そんな格好でうろうろされちゃ困る」
首筋にかかる長い髪は見事にセットされ、一縷の乱れもない。
トラッドなファッションは良家の御曹司そのものだ。
「すみません。すぐに着替えてきます――」
先刻の屈辱にまみれたシャツの前をかき合わせ、僕は目を伏せた。
「和樹――」
横をすり抜けようとする僕の手首を、征司はがっちりと掴んだ。
『やっぱり縛られて感じたか?』
頭ひとつ高いところから、いやらしい囁き声が聞こえてくる。
僕の背中にゾクリと電流に似た震えが走った。
「見てたんですか……」
顔を背ける僕を壁に押しつけるようにして
「他の奴に2度とあんな顔見せるな」
征司は低くうなった。
「今夜、俺の部屋に来いよ」
「――はい、お兄様」
僕の頭を乱暴に小突くと、完璧な御曹司の顔に戻って、征司は去って行った。
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