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黒いコートに紳士なハット。
薄い唇は赤く、不敵に釣り上がっている。
10メートル先で両手をポケットに突っ込んだそいつは、ずぶ濡れのまま笑っていた。
通りを走る車のライトが不規則にその顔を照らしている。
夢の姿そのままに ぐじゅぐじゅと濡れた足音で近寄ってくるそいつは、不気味な異世界の使者のよう。
あれは夢のはず―…!
あいつがいるワケ……!!
目を見開いて動けないでいるとゆっくりと近寄りながら、ぬうっと右手を伸ばしてきた。
「うわあ!!?」
地面から足を引きはがし傘も放り出して通りまで走ると、異常な速さでもう2メートル後ろにそいつがいた。
「あああぁ!!!」
半狂乱で横断歩道を渡り切った直後キキー――ッ!!!と急ブレーキの音がして、続いてドンッ!!と鈍い衝突音がした。
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