2.手術台

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 意識を取り戻した時、俺は平らな台の上にあおむけに固定されていた。頭を左右に動かしてあたりを見回す。自分が固定されているのが手術台だとわかった。胴体が胸のところで皮ベルトで手術台に固定されている。両手は上に曲げた状態で、耳の横で手術台に固定されていた。手を拘束から外せないか力を振り絞ったが、ベルトはびくともしなかった。  照明器具が手術台の真上にセットされており、横に大きな鏡が取り付けられていた。その鏡で自分の姿を見ることができた。緑色の手術着を着せられており、下半身にかけられたシーツは下腹部の部分が大きく四角に切り取られている。そこから見える下腹部は既に剃毛されていた。足を動かそうとしても、下半身の感覚がない。脊椎麻酔をかけられているようだった。 「目を覚ましたのね」  声の方向に顔を向けると、手術台の脇に鷹須助教が立っていた。 「実験の準備はできてたけど、あなたが目を覚ますのを待っていたのよ。きちんと説明してあげないと悪いと思って」  そんな問題ではないと叫びたかったが、この状況で彼女の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。何とか彼女を説得して、実験を思いとどまらせないと。 「あの、こんなことはやめた方がいいと思いますよ。きちんとした手順をとらないと」 「心配しなくても大丈夫。しっかり準備はしてきたんだから……。見せてあげる」  彼女は足元のクーラーボックスからシャーレを取り出した。1cm角くらいのピンクの肉片が入っている。 「これはカエルの肉だけど、切除したばかりだから細胞はまだ生きているわ。そして……」  今度は脇の器具置き台から注射器を取り上げた。中には黄色い液体が入っている。 「この中に入っているのが誘導物質なの。スーパーマゴットはこの液体を注射された細胞だけを選択して食べるのよ。ほら」  彼女はシャーレの肉片に黄色い薬液を注射した。椅子を手術台のそばに引き寄せて座り、左手の袖を肘までまくる。左手のひじから先を手術台の上、俺の顔のすぐそばにのせた。白い肌に走る静脈が透けて見える。肉片をピンセットでつまんでひじの内側のくぼみの上にのせ、右手でクーラーボックスから別のシャーレを取り出した。例のマゴットがはいったシャーレだ。ふたを取って、左手の手のひらの上に置いた。
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