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「すまないが、その桶を貸してくれ」
再び顔を上げ、妖怪は男に告げた。
男は取っ手に縄を括り付けた桶を妖怪に手渡す。
妖怪は桶を井戸の底へと投げ入れる。
桶を井戸に放ってから間もなくして桶が水に落ちる音が帰って来た。
やはりカヤの言う通り、井戸は見た目程深くはない。
音を確認した妖怪は縄を手繰り、ゆっくりと桶を引き寄せて引き上げる。
そして足下に桶を置き、中を見た。
言われた通りその水は澄み切っている。人が死んだなどと言わなければ何の抵抗もなく口に運べそうなものだった。
が、妖怪は俯いたまま狐の面を上げた。
「あんたまさか……!」
男が声を上げた。
そのまさか。妖怪はなんの躊躇いもなく、桶の水を両手で掬い口に運ぶ。
その姿に二人は目を見開いた。
妖怪は両手の水を飲み干すと、体を覆う黒い布で口を拭ってから面を口元まで降ろして立ち上がる。
「旨い水だ」
その言葉に、二人は声を失ってしまう。
尚も、妖怪は振り返り二人に告げた。
「やはり、この井戸はアヤカシに取り憑かれている」
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