3人が本棚に入れています
本棚に追加
「……アヤカシ?」
恐る恐るカヤが尋ねる。
「ああ。まあ人には見えにくいものだがな」
「なんでそんなもんがここに居るんだ!?」
男が目を見開いて訊いて来る。
「アヤカシが居ること自体は珍しくない。アヤカシそのものは世界を構成するものの一つで、どこにでも当たり前に存在している。……だがこの場合は」
妖怪は再び井戸の底へ目を向ける。
闇の底で蠢くそれは、よもや“どこに でも当たり前に”などというものではなかった。
「こいつは本来水に居る微生物や虫なんかを分解して養分を水に溶かすアヤカシだ。光に極めて弱く、喰うのも死骸や屎尿ばかりだが、稀に生きた生物を捕食するようになる。そういった個体が成長を続けると、やがては人すらも捉えて喰らうようになる」
「なっ!? そいつが村の奴ら食ってたってのか!?」
「まだ喰うという所まで行ってはいないが、井戸に引きずり込む程の力は着けている」
「そんな事って……」
男は妖怪の前に立ち、井戸を見下ろす。
が、やはり人間である男にその姿を捉える事は出来ない様子だった。
「なあ……」
すると、男は井戸から顔を上げて再び妖怪を見た。
「まさかこれが、噂に聞くアヤカシに憑かれるって奴なのか?」
最初のコメントを投稿しよう!