3人が本棚に入れています
本棚に追加
夜が更ける頃、村中の人々が松明を手に井戸に集まる。
「こんなのが有ったが、使えるかい?」
そう今朝の青年が妖怪に灯りの灯った提灯を手渡す。
「上々だ。これならアヤカシも払えるだろう。今からアヤカシを払う。念の為、皆には近付かないように声を掛けておいてくれ」
青年は頷く。それを確認してから妖怪は提灯の釣り金に紐を結び付ける。
そして妖怪は井戸の側まで歩み寄る。
そのまま井戸の縁で底を覗き込む。
底に有った暗がりよりも黒い闇は、手を伸ばせば届きそうな場所まで溢れていた。
妖怪は構わず提灯を井戸に降ろして行く。
すると闇は徐々に溶けて行き、井戸の底へと押し戻されて行く。
やがて提灯が井戸の底に到達すると、蠢いていた闇は綺麗に消えてしまった。
妖怪は提灯を引き上げると、紐を解き青年の元へ歩んで行った。
「終わった……のか?」
呆気に取られた様子で青年は尋ねる。
そんな青年に、妖怪は「ああ」と短く返して提灯を返す。
周りの人間も納得行かない様子でざわつき始める。
だがそんな様子を気にせず、妖怪は村人達の間を通り過ぎて井戸を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!