喰らう闇

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「どうぞお上がりください」 「ではじゃまする」  妖怪は履いていた地下足袋を脱ぎ、家に上がる。  村の外れに位置したその家は玄関と居間が繋がっており、十畳程の居間の真ん中には囲炉裏がある。  妖怪は不思議に思った。  これだけ広い家にもかかわらず、玄関にはあの女の草履一つと、今脱いだ足袋しか無い。 「家族は野に出ているのか?」  それを妖怪が口にした途端、女の表情が曇る。 「この家には、今は私しか住んでおりません」 「さあ、遠慮せずに腰を下ろして下さい」と、女は上座に座布団を敷く。  妖怪が座布団の上に座ると、囲炉裏を挟んでその向かいに女はそのまま膝を下ろして座った。 「火はよろしいですか?」 「ああ。大丈夫だ」 「左様で」  女は、そこで一拍置いてから話し始めた。 「改めまして、私はカヤと申します」 「そうか。すまないが、私には名乗れる名前が無い。だから、好きに呼んでくれて構わない」 「畏まりました。では今まで通り、旅のお方で宜しいですか?」 「構わん。それよりあの井戸の話を聞かせてくれないか」 「はい」  カヤは、淡々とした口調で話し出した。
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