3人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「どうぞお上がりください」
「ではじゃまする」
妖怪は履いていた地下足袋を脱ぎ、家に上がる。
村の外れに位置したその家は玄関と居間が繋がっており、十畳程の居間の真ん中には囲炉裏がある。
妖怪は不思議に思った。
これだけ広い家にもかかわらず、玄関にはあの女の草履一つと、今脱いだ足袋しか無い。
「家族は野に出ているのか?」
それを妖怪が口にした途端、女の表情が曇る。
「この家には、今は私しか住んでおりません」
「さあ、遠慮せずに腰を下ろして下さい」と、女は上座に座布団を敷く。
妖怪が座布団の上に座ると、囲炉裏を挟んでその向かいに女はそのまま膝を下ろして座った。
「火はよろしいですか?」
「ああ。大丈夫だ」
「左様で」
女は、そこで一拍置いてから話し始めた。
「改めまして、私はカヤと申します」
「そうか。すまないが、私には名乗れる名前が無い。だから、好きに呼んでくれて構わない」
「畏まりました。では今まで通り、旅のお方で宜しいですか?」
「構わん。それよりあの井戸の話を聞かせてくれないか」
「はい」
カヤは、淡々とした口調で話し出した。
最初のコメントを投稿しよう!