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妖怪は早速井戸のあった集落の中心へとやって来た。
そしてそれを追うように、カヤも妖怪に着いて来る。
井戸の周りには先程の人だかりはなくなっており、代わりに村の若い男が井戸から水を汲み上げては周りに撒いていた。
「失礼していいか?」
そう告げ、妖怪は返事を待たずに井戸を覗く。
男は妖怪の異様な容姿を見て驚きながら、井戸の底に降ろそうとした桶を引き、後ろに下がった。
妖怪は面の奥で目を凝らし、薄暗い闇の中を見つめる。
しかしその底は暗闇に閉ざされよく見えなかった。
「この井戸は深いのか?」
妖怪は井戸を見下ろしたまま聞く。
「いいえ、見ての通りそれ程深くは……」
妖怪は顔を上げ、今度は男に声を掛ける。
「この井戸の水は仏が出た後も澄んでいたか?」
「あ、ああ……。見ての通りだよ」
眉をひそめながら男は応えた。
男に怪訝な目を向けられるも、妖怪は気にせず再び井戸の底に目を向ける。
最初に見た時は気が付かなかった。
が、今はハッキリと見える。
よく目を凝らせば、井戸の底の闇がひしめき合い、蠢いていた。
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