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「ごめーん。割り箸持ってない?」
大学を卒業後、4月に入った会社の配属先に、あの人“奥平哲治”さんがいた。
10歳年上で仕事も出来、営業先の評判もよく、上司のウケもいい。
昔、運動部だったと言うその体はガッシリして逞しく背も高い。
顔も悪くはないが、特別男前だって言うわけじゃないのに、何かしら立ち上る色気と、生来の性格の良さが関係しているのか、男女問わず人気がある。
そして何より愛妻家のようで、3歳年上の奥様とは子どもはいないが、いまだにラブラブらしい…と女子社員が『奥さん羨ましいなあ』なんて給湯室で騒いでた。
確かに理想的だよなあ。
ほぼ毎日愛妻弁当だし…
そんな奥平さんに比べ、俺は他人の輪の中に飛び込むのも 一苦労で、同期は縦横に繋がり始めてきた入社一ヶ月の未だまわりに馴染めないままでいる。
今日のお昼も、途中のコンビニで買った弁当片手に、一人で屋上ででも食べようかと立ち上がったところだった。
「あ、どうぞ。昨日2本入ってたんで。よかったら使って下 さい 」
我ながら庶民くさいと言うか、貧乏くさい…?
そう思いながら引き出しから出した割り箸を差し出した。
「助かった。ありがとう鈴木君。そうだ、一緒に食べよう か?」
俺にとっては、まさかまさか…の話だった。
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