14人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
やつは無言のまま俯いた。それが俺の話を肯定しているようで悲しくなった。
「……やっぱり女がいいよな。こんな、ジグザグしている俺よりも」
「……」
「俺なんかに抱きついてないで素直に向こうに行けよ。俺は構わないから」
違う、本当は傍にいてほしい。だけれど口が勝手に動いてしまう。
「行けったら!! このまま抱きつかれても俺が困るんだよ!」
しかしやつは離れないどころか、絞め殺されるのではないかというくらいに強く抱き締めてきた。まるで脱走した俺を閉じ込めようとするように。
「ハイネ……僕はどこにも行けないよ」
「何で…っ」
「ハイネ…泣いてるもん」
「……え」
あわてて頬に手をやると、透明な雫が転がり落ちた。
「…あ…」
「泣いている君を置いてどこかに行けるわけないじゃないか。それに、さっきの告白は本心だよ。僕は君が好きなんだ…」
「嘘を吐くのも大概にしろっ!」
「嘘じゃないっ!!」
「じゃああの時の女は何なんだよっ!」
「あれは……」
やつは口籠もった。やはり、何かある。俺は泣きたくなった。いや、泣いていたのだが。
「あの女と幸せにしてろよ…っ」
「ハイネ違うっ! 僕はあの子とは何もないし、好きでもない!!」
「じゃあ、何なんだよっ…」
溢れだした大量の涙は止まらない。時々、涙を止める能力があればいいと思う時がある。どんなに力んでも涙腺は閉まらない。
「ハイネ……こっちをむいて」
「嫌だっ…」
「…いいから向けよっ!!」
普段温厚な、やつらしくない怒気した口調にビクつき、素直に振り返った。正直、泣き顔を見られるのは抵抗があった。
「ハイネ…」
やつはホッとしたような笑みを浮かべ、俺の額にキスを落とした――。
最初のコメントを投稿しよう!