登校初日

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ナイフの人が痛みで悶えてるのを無視して、黒髪の人は俺にニッコリ笑った。 「怪我はありません? 危機一髪でしたから」 「あ。右肩……痛い」 「本当だ。血が滲んでますね、消毒しないと……少々お待ち下さい」 黒髪の人はそう言うと、ポケットからロープを取り出して、ナイフの人の体に巻き付けた。 「何……してる?」 「くっ、てめぇ、やめろ……うぐっ!」 「違反者を付き出すんです。ほら、ナイフを振り回して危ない人を野放しには出来ませんから」 「なるほど」 「理解力がおありで助かります。よしっと……ざっとこんなものですかね?」 両足と両手首を縛り、それを全身に巻き付けて、動けなくなったナイフの人は俺と黒髪の人を睨んだ。 「っ、解きやがれ!」 「嫌ですよ。はいはい言って良心的に解いた瞬間にナイフでブスリ!と、やるおつもりでしょう? マゾじゃないですから、痛いのは嫌ですし。ね?」 「え、う、うん。痛い、やだ」 急に同意を求められて、頷けば、ニッコリと笑われる。 「はい。満場一致で、貴方はここでさようなら。さ、君は僕と共に行きましょう。もうすぐ、厄介な人たちが来ちゃいますから」 「え、あ」 左手を握られて、そのまま引かれながら歩く。 でも、あの人…… 振り返る俺に気付いたのか、黒髪の人はクスッと笑った。 「気になります? 平気ですよ、彼を回収に来てくださる、とっても凄い人たちが来ますから」 「凄い?」 「執行委員会……違反者に厳しい人たちですよー。こっわーいですよー」 「こっわーい……?」 「関わらない方が早いです」 「さ、行きましょう」と手を引かれる。 カンカン、と地面を擦る、鉄パイプ。 そう言えば、ずっと握ってた。 でも、これに助けられた。 ……持ってこう。 遭難した時、とか、杖になる、便利。 黒髪の人に連れて貰える……あ、迷子だった。 「何処、行く?」 「校舎ですけど、駄目でした?」 「良い。迷子、俺」 「えぇ、だと思いました。普通、C地区なんて立ち入りませんからね」 「そう、なの。でも……どうして、ここ」 「僕ですか? 君がC地区に向かうのが見えたので、面白そうだったから追い掛けました」 「え?」 「単に言うなら、尾行致しました」 ニッコリ、とまた笑われて、あれ、尾行って何だっけ、と首を傾げたのだった。
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