腹が減っては戦は出来ぬ

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それから、静を睨む。 「遠野静だな」 「おや、ご存知で」 「……先程の通報は誠に感謝するのである。だが、」 竹刀を下ろし、眼鏡の人は腕を腰に当てた。 「縄で緊縛し放置された違反者が状況説明に向かないのである。ただ吠え散らかすだけでな。そこで遠野、何があったか我々の前で報告して貰いたいのである」 「その件は、再三子細申し上げることのほどではありませんけどねー。通報時に申し上げた通り、ナイフの使用、敗戦にも関わらず訓練の続行、殺意ある行動。これで充分のはずではないでしょうか?」 静、俺が戦ってる時、通報してくれたみたい。 こっわーい人たちに? 静は、優しい。 「我々は細部に渡る情報が欲しいのである。一部始終、見ていたのであろう?」 「……見ていましたが、断る、と申したら……どうなさるんでしょうか?」 「ふん」 眼鏡の人はまた竹刀を上段に構え、今度は先端部に手を添える。 突きの構え──だと、思う。 多分、喉とか、鳩尾が狙いやすい、そんな構え方。 隙がない。 「私は執行委員会第六席、井浦阿岐。ランクは少佐に当たる。……経験がほぼない毛の生えた程度の入学したての1年が、私に敵うとでも思うのであるか?」 「少佐……」 確か……静が、さっき言ってた、呪文みたいなやつ。 それの後の方に出てきてた。 格上の、相手……? 威圧感を漂わせる眼鏡の人に対し、静はごくり、と喉を鳴らした。 「……今は、訓練ではないはずです。戦闘行為は禁じられているのでは?」 「逆らう者は、原則、処罰を与える権利を執行委員会は所有しているのである。さぁ……我々への説明をしに、供だって頂く」 「…………参りましたね」 静は諦めたようにため息。 そして俺の肩を、ポンッと叩いた。 「やっくん。ちょっと行ってきますね……すぐに戻りますが、先に売店に行ってて下さいね」 「静……俺」 静が説明に行く、より。 襲われた俺の方が。 伝わったのか、静は顔を横に振った。 「ご指名は僕ですので。……それに、やっくんはもうお疲れです。君を無理させたくない」 「静」 「ご安心を。ちゃっちゃと説明して、すぐに戻って来ますから」 そうやって笑うと、「早くついて来るのである」と急かす眼鏡の人に返事をしてから、静は「行ってきますねー」とついてっちゃった。 急にまた、一人……寂しい。
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