4347人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、静を睨む。
「遠野静だな」
「おや、ご存知で」
「……先程の通報は誠に感謝するのである。だが、」
竹刀を下ろし、眼鏡の人は腕を腰に当てた。
「縄で緊縛し放置された違反者が状況説明に向かないのである。ただ吠え散らかすだけでな。そこで遠野、何があったか我々の前で報告して貰いたいのである」
「その件は、再三子細申し上げることのほどではありませんけどねー。通報時に申し上げた通り、ナイフの使用、敗戦にも関わらず訓練の続行、殺意ある行動。これで充分のはずではないでしょうか?」
静、俺が戦ってる時、通報してくれたみたい。
こっわーい人たちに?
静は、優しい。
「我々は細部に渡る情報が欲しいのである。一部始終、見ていたのであろう?」
「……見ていましたが、断る、と申したら……どうなさるんでしょうか?」
「ふん」
眼鏡の人はまた竹刀を上段に構え、今度は先端部に手を添える。
突きの構え──だと、思う。
多分、喉とか、鳩尾が狙いやすい、そんな構え方。
隙がない。
「私は執行委員会第六席、井浦阿岐。ランクは少佐に当たる。……経験がほぼない毛の生えた程度の入学したての1年が、私に敵うとでも思うのであるか?」
「少佐……」
確か……静が、さっき言ってた、呪文みたいなやつ。
それの後の方に出てきてた。
格上の、相手……?
威圧感を漂わせる眼鏡の人に対し、静はごくり、と喉を鳴らした。
「……今は、訓練ではないはずです。戦闘行為は禁じられているのでは?」
「逆らう者は、原則、処罰を与える権利を執行委員会は所有しているのである。さぁ……我々への説明をしに、供だって頂く」
「…………参りましたね」
静は諦めたようにため息。
そして俺の肩を、ポンッと叩いた。
「やっくん。ちょっと行ってきますね……すぐに戻りますが、先に売店に行ってて下さいね」
「静……俺」
静が説明に行く、より。
襲われた俺の方が。
伝わったのか、静は顔を横に振った。
「ご指名は僕ですので。……それに、やっくんはもうお疲れです。君を無理させたくない」
「静」
「ご安心を。ちゃっちゃと説明して、すぐに戻って来ますから」
そうやって笑うと、「早くついて来るのである」と急かす眼鏡の人に返事をしてから、静は「行ってきますねー」とついてっちゃった。
急にまた、一人……寂しい。
最初のコメントを投稿しよう!