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(SIDE:静)
ステージ上、やっくんが鎧戸さんの拳を鉄パイプで受け止めてから動きがピタリと止まる。
「どうしたのでしょうか」
「おシズが一番わかってることじゃね」
「え?」
僕の問いに答えた有賀先輩の意味深な言葉に聞き返すように首を傾げれば、先輩は後頭部へ手を回しステージを見ているだけで。
僕が一番わかってること……と、ステージに目を向ければ、やっくんが鉄パイプで鎧戸さんを押し離れているところだった。
鎧戸燕──アンチでも蛍様側に付き蛍様に信仰、とまでは行かないにしても蛍様を尊敬し納得して従っている、アンチでは珍しいタイプの人物。
以前、サバイバルゲームでやっくんと対峙して以来気に入られていた風だった。
鎧戸さんの軽いジャブの応酬をしっかり見ているのか、やっくんは確実にただ持っているのではなく、鉄パイプで弾いている。
「八雲は本当に"育てられ"とる、前とは段違いじゃ」
「あのキョンキョンがまーだお世話してっからなー!」
「まだ付け焼き刃だが、成る程な、同じ形状の武器の師を得た方が覚えることもあるじゃろ。だから、宍戸に預けとんじゃろ?」
日高先輩と有賀先輩が話してる最中、やっくんが鎧戸さんの一撃を払うように押し、相手が体勢を崩したのに合わせて身を低くした。
のと、有賀先輩が小さく笑ったのは同時で。
「お好きにオレの考え妄想してろよ!」
突き出すように鉄パイプの先を向けるやっくんの一撃を、すれすれで躱す鎧戸さんに、周囲のアンチが感嘆の声を上げる。
「オノレのこと考えてる暇は儂には無い」
「はっはー雪Gツンデレ乙! つーか」
鉄パイプを突き出した状態、低い体勢のまま、やっくんは左足を軸にするように、右足を伸ばしそのまま引き摺りながら回して鎧戸さんの足元を払った。
苦い表情で転ばぬように体勢を崩した鎧戸さんへ、やっくんは体を捻り鉄パイプを上から相手へと振りかぶる。
「オレは、言うほどキョンキョンに戦闘スタイル似てるとは思わねーけどな」
有賀先輩の言葉は、振り落とす鉄パイプを肩から受け体勢が不自由だった鎧戸さんの背がステージの上に付き、上がった歓声の中へと消えていった。
『決まったー! 何かマトモな勝負ようやく見た気がするッスね!』
湯崎先輩の言葉に息を乱していたのか肩で呼吸を整えるやっくんがこっちを見て、親指を立ててきて、ああ君はこんなに強くなったんですねと称賛するように拍手した。
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