─壱─

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 ──その時である。 足の裏にチクリと鋭い痛みを覚えたのは。 「い…って!何だよ、これ??」  短い呻きを挙げて、彼は足元を覗いた。 暗がりの中で目を凝らせば、其処には、極微細なレゴのパーツが落ちている。鋭利なその角が、自分の足の裏に刺さったのだと知るや、俊也は「糞!」と毒づいて、腹立たし気に患部を擦った。  この、レゴおたく──! 怒鳴り散らしたい気持ちをグッと堪えて、青年はベッドの家主を睨め付ける。 「起きろ、馨!」  一際大きな声で名前を呼ぶ。 だが、『馨』はふわふわの羽毛布団に埋もれて、アルマジロの様に丸まったまま身動ぎもしない。 「起きろって!!」  堪り兼ねて布団を剥がせば、馨は寒そうに身を縮めて寝返りを打った。その姿に、俊也は思わず言葉を失う。  馨は、可愛らしいウサギの柄のパジャマを着ていた。 良い歳をした男が、ウサギ柄?? 他人の趣味をとやかく言うつもりは無いが、これは流石に頂けない。  馨の変人振りには、これまで幾度も驚かされて来たし、その奇行の数々にも、随分慣れたつもりだった。だが、これは…  込み上げる思いを、俊也は、短い嘆息で揉み消した。 馨には、まだまだ未知の側面があるのだろうと、無理矢理、自分を納得させる。
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