─壱─

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 ログハウスの二階は、主に寝室として使われている。簡素な造りの其処は、部屋というより、ロフトに近いスペースだ。あまり高くない天井に頭をぶつけない様、俊也は細心の注意を払って寝室のドアを押し開いた。  …果たして。家主の青年は、ベッドの上でダンゴムシの様に体を丸めて眠っている。リビング程ではないにしろ、此方もかなり雑然としていた。大小色とりどりのレゴが散らばり、足の踏み場も無い。  俊也は、脱力した。 この後、間違いなく手伝わされるであろう部屋の片付けの事を思うと、言葉も出ない。 家主にとって、この無数に散らばるレゴの山は、『宝物』なのだ。パーツ毎、大きさ毎、カラー毎に、きちんと振り分けて収納しないと厳しいダメ出しが入る。  『彼』は、いつもそうだ。 病的なまでの、物への拘り。 マニアックの域を遥かに凌駕する、飽くなき探求心。 独自の美学から構築された異様な収集癖は、見る者全てを瞬時に黙らせる威力を持つ。  極度に神経質なその性格は、時に、俊也の理解の範疇を越えた。そうして、片付けを手伝わされる度に、彼は報われない気分になるのである。  はぁ…と盛大な溜め息を洩らすと、俊也は家主のベッドに近付いた。
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