§83

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 外を眺めたまま動かないフィリアをさりげなく見つめ、ラウドは頬杖をつき直す。  姉の話から捉えて、彼女は隣町のコンデルツで戦っていたのだろう。しかし、彼女は今回この町スタンヴィッチェに来たいと自ら言った。  その理由は分からない。  そして、この戦争の話題だけはこちらから出す事はどうしても出来なかった。口の中に疑問は留まり、別の言葉に変換される。 「明日、何時に出掛けんの?」  ふと向けられたフィリアのその表情は、いつもと何も変わらなかった。実際、気にしているのはラウドだけなのだろう。 「……そうね、夜明け前には出るつもり」 「あ? そんな早くから行くのか?」  ラウドは思わず頬杖から顔を上げ、目を丸くさせた。フィリアはカップを口に一度付けると、それをゆっくりと下ろして両手で持つ。 「結構遠いからね。お昼くらいには帰って来れると思うけど」 「ふーん。まあ、気を付けてな」  つまらなそうな彼の顔を見るとフィリアは苦笑いを浮かべ、外の雪を一瞥した。  寒い地方の太陽は沈むのが早い。  オレンジ色の外は、いつの間にか闇に侵食されそうになっていた。 .
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