§83

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 ラウドは目蓋を下げ、ぼんやりと一ヶ月前の出来事を思い出した。自然と浮かび上がって来るのは義母だった精霊の青い髪と涙、そして歌声。  全てを知ってしまったあの日から既に三十日以上も経ったという感覚が、不思議と未だに感じられなかった。  ふと、嗅ぎ慣れたコーヒーの匂いが漂う。 「それはそうと、まだ監吏(かんり)の配置情報は公表されてないんですね。お昼頃、挨拶がてら部隊を伺ったのですが、まだ町人に配属された事を公表してないと監吏が仰ってました」  スッと伸びて来たフィリアの手にはコーヒーカップが持たれていた。それをラウドの目の前に置き、更に角砂糖が沢山入った瓶を隣に置く。  右側に立つ彼女の横顔を見ると、その耳に付けられた白いピアスとリングピアスに目がいった。  本部所属証と、今この水晶球の中に映る彼女の上司から渡されたもの。完全にそのリングピアスをもらい受けたと聞いた時の彼女の顔は嬉しそうで、少しだけ嫉妬してしまったのは秘密だ。 「“今いる町ってどこだったっけ?”」  セルザは顎に手を添え、うーんと唸る。 .
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