§83

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 軍の立て直しと同時に旧型の通信用水晶球も買い替え、魔力を注ぎ続けなくとも通信保持が出来る新型のものになったお陰で両手が空き、何かと便利になった。  ラウドは角砂糖を大量にコーヒーの中に入れ、フィリアとセルザの顔を見比べる。不思議な事に、フィリアは町の名前を伝えなかった。  忘れてしまったのかと思い、ラウドは代わりに答えてやる。 「スタンヴィッチェだよ、北の大都会の」  途端、何故かセルザは大きく目を見開いて固まった。それに気付き、ラウドは怪訝そうに眉を寄せる。  いつの間にかフィリアは傍を離れていた。セルザは頬杖をつき、小さく微笑む。  金色の髪が揺れた。 「“……なるほどね、スタンヴィッチェか。概(おおむ)ね、あの子の提案でしょう?”」 「え? ……いや、そうだけど」 「“その分だと、何も聞かされてないわね? まあ、今日中には教えてもらえるわよ”」 「あ? 何を?」 「“スタンヴィッチェに来た理由よ。聞かされてないんでしょう?”」  ラウドはグッと口をつぐみ、フィリアを視線で追った。彼女はコーヒーを片手にルースと談笑している。 .
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