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『行きたい町があるの』──スタンヴィッチェには来た事が無かったラウドは、フィリアの提案を断る事など選択肢になかった。
しかし、今考えてみれば確かに彼女は行こうではなく、『行きたい』と言っていた。特に深く考えなかったが、何か理由があるのだろう。
セルザが言うのだから間違いない。
「“でも、あの子ならコンデルツを選ぶと思ったんだけどなあ”」
「それ、隣町だっけ?」
セルザは小さく頷き、水晶球を越してフィリアの姿を捜すように身を乗り出した。
「“フィリアー、アンタまだラウドに教えてないんでしょー? 今教えてあげたらー?”」
すると、フィリアは一瞬きょとんとなるとコーヒーをテーブルに置いてラウドの傍に歩み寄る。
ラウドは彼女の顔を見上げ、目で何の事だと訴えた。
「……明日」
その一言を呟くと、フィリアは苦笑してほんの少しだけ視線をそらす。漆黒の瞳は遠くを見つめていた。
過去の惨劇を。
「ヴィルガイア戦争の終戦記念日なの」
ラウドは目を丸くさせると、セルザに確認を取るかのように顔を向けた。
「え、あの三年前の? 明日が?」
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