§83

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 『行きたい町があるの』──スタンヴィッチェには来た事が無かったラウドは、フィリアの提案を断る事など選択肢になかった。  しかし、今考えてみれば確かに彼女は行こうではなく、『行きたい』と言っていた。特に深く考えなかったが、何か理由があるのだろう。  セルザが言うのだから間違いない。 「“でも、あの子ならコンデルツを選ぶと思ったんだけどなあ”」 「それ、隣町だっけ?」  セルザは小さく頷き、水晶球を越してフィリアの姿を捜すように身を乗り出した。 「“フィリアー、アンタまだラウドに教えてないんでしょー? 今教えてあげたらー?”」  すると、フィリアは一瞬きょとんとなるとコーヒーをテーブルに置いてラウドの傍に歩み寄る。  ラウドは彼女の顔を見上げ、目で何の事だと訴えた。 「……明日」  その一言を呟くと、フィリアは苦笑してほんの少しだけ視線をそらす。漆黒の瞳は遠くを見つめていた。  過去の惨劇を。 「ヴィルガイア戦争の終戦記念日なの」  ラウドは目を丸くさせると、セルザに確認を取るかのように顔を向けた。 「え、あの三年前の? 明日が?」 .
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