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 「大丈夫か?良くないな、」  そこまで言って、彼はいちど言葉を切ったが、俺がきょとんとしているのを見て言葉を足した。  「顔色が。」  彼は佐藤孝也(さとうたかや)という。俺とは大学時代から何かと行動を共にしてきた。特に足並みをそろえるつもりもないのに。  俺には、彼のもったいぶったような話し方は、次に自分の口から何が飛び出すのかと身構える相手の表情を見て楽しんでいるように思えてならないのだが、どこか嫌いになれなかった。第一こちらがその話し方に文句を垂れたところで、気の抜けたような笑い声で、「ははは。そうか。」とかわされるだけだ。柳よりもしなやかに。佐藤孝也とはそういう人だ。  「今日は、寝覚めが悪かったんだ。夢を見た。」  これは本当の話だった。  --祐太!!--  夢の中で自分が古い友人の名前を叫んだのを思い出す。そこで目が覚めたのだ。あまりに有りがちな展開に自嘲の笑みがこみ上げた。  「夢?・・・どんな?」  「昔の夢。とびきり嫌な思い出だ。」  「お前にそんな思い出があるなんて初耳だな。」  「簡単に言うと・・・、どうしようもない時には諦めるしかないって話だ。」  彼が、とんでもないいたずらを思いついた子供のように楽しそうな笑みを浮かべていなければ、もう少し具体的な話をしていただろう。  「諦めか。確かにお前には合わない言葉だな。」  「ああ。それにこの世界で諦めは禁物だからな。」  「今回のヤマも気合入れてかからないと・・・。なんか時間かかる気がするんだよなぁ。」  そういって彼は、物憂げに車の外を眺めた。  学生街であるこの町には馬鹿の一つ覚えのように、古いアパートとマンションばかりがならんでいる。決して良い景色とは言えない。  「そんなこと言うなよ。お前の勘はよく当たるんだから・・・。」  そう言いながらも俺は覚悟を決めた。おそらく長引くだろうな、と。  彼と同じように窓の外に目をやると、相変わらず何の面白みもないアパートが何軒も堂々と立ち並んでいた。  先日見たテレビ番組で若手のお笑い芸人がつっこまれていたのを思い出す。  「大しておもろないんやったら、そんな自己主張せんといてくれる?」  俺の独り言はタカに届く前に、車のエンジン音にかき消された。
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