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しかしこの心配はすぐに払拭された。
「まったく。迷惑な話ですよ。」
「では、被害者の女性とは契約の時以外、顔を合わせることもほとんどなかったと?」
「ええ。ええ。だから彼女について何か思い当たることなんて言われてもねぇ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「警察もたいへんでしょうが、さっさとかたづけてくださいね。」
「はい。・・・あ、現場の状況などは一般の人には話さないようにしてください。」
「当然ですよ。噂がひろまって借り手がいなくなったらたまりませんからね。」
これはアパートの大家との会話だ。
人間なんてそんなものなのかもしれない。あんなことするやつもいる、こんなことするやつだっている。だから自分は正常だ、と安心して生きてゆくのだ。
「なんて、現金な・・・。」
この仕事を続けていると、どうも悲観的になる傾向があるようだ。俺の独り言はまたもや誰にも届くことなく、けたたましい蝉の声にかき消された。
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