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「確かこの辺に……」
久しぶりに実家を訪れた俺はある物を探していた。
少し引っ掛かる押し入れの襖を開け下段を覗き込むと、滅多に使わない客用の座布団や掃除機、白いプラスチックの収納ケース。
「ここじゃないな」
3枚並んだ襖の一番左を閉めて、真ん中を開ける。
ビニール袋に包まれた電気ヒーターが冬を待っていた。その横には陶器でできた壺。
使わなくなった親父のゴルフクラブが斜めに突っ込まれている。
奥に昔母親が使っていた古いミシンと錆びたクッキーの缶が暗がりの中に見える。
ビニール紐で縛られた薄い月刊雑誌の表紙には黒々とした髪をふわりと内側に巻いた婦人が整えられた太い眉毛で笑っている。
「うちの押し入れはカオスだな」
真ん中を閉め、最後の襖を開けて覗き込むと大小の段ボール箱が詰め込まれていた。
「お」
襖の前に箪笥が鎮座しているので、両膝をついた俺は両手を伸ばして箱の一つを引っ張り出した。
互い違いに組まれた箱の上部にマジックで書かれた幼い字が見える。
俺の名前だ。
「服か……」
更に押し入れを覗くと妹の名前が書かれた箱とごちゃごちゃになっているようだった。
取り出した箱は目当ての物ではなかったが、興味が沸いた俺は開けてみる事にした。
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