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プロローグ
□エヴァーダ
眼前には白い砂浜があった。
まだ明け切らぬ藍色の空は、水平線を十字に切り裂く夜明けを待っている。濃紺の海は岩肌に打ち砕け白濁の波を泡にした。
潮の香りも波の音も・・・目の当たりにする全部が自分の記憶から生み出された幻想などとは想えないくらい生々しい。
そこには、鯛我肇(タイガハジメ)ただ一人居るだけだ。
眼前に広がるのは過ぎ去りし想い出の砂浜。亡き妻・・小夜子と共に眺めた海が広がっていた。
実際には鋭く深く刻まれた地割れと容赦ない太陽熱は地球の表面から海を奪い、砂漠化した世界、周期的に訪れる超熱波が静けさを保つクールゾーンに入っていた。
地軸が傾き地場が乱れてからは昔の日本のように四季を感じることも無くなっていたが、科学はそんな人々の為、AIがバーチャルで誤魔化す・・・鯛我肇はその世界を好んでなどいない。
風や打ち寄せる波音ですら無音になるくらい肇はどこか虚ろだ。
淡々と移ろう空の色は、まるで肇の気丈さを消し去っていく大きな不安の塊は心の隅々まで 浸食し ていくように感じる。
「オヤジぃ」意識の中に息子である武光の声がした。
そして「ナニぼけっとしてんだよ、早く戻らないと蒸発しちまうぜ」武光の声には不安と呆れが混じっていた。
「あぁ・・・そうだな」肇はためらいがちにそう言うと、思念で呼び寄せた左手首のセキュリティアに触れた。
肇のエーテル(思念媒体)を一瞬で防護シールドの膜が覆った。
80度を超す超熱波の夜明けは一気に身体の水分を蒸発させる。
例え、反物質のエーテルであったとしても水分を含むモノである以上・・・同じ現象が待ち受ける。
昼間の地上では空気さえ吸えない。
・・・・・・・
セキュリティアは人口が著しく減少するのを抑える為、反政府エウ”ァーダが考案したハンドベルト型の退避装置をいう。
それは、Gシステムに寄って管理されており、鯛我家を含める2500名の国民全てを網羅している。
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