プロローグ

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不意に気難しい表情になった橋場が「バイオプランター……」と、ひと言口にした。すると、大型スクリーンには命じられた通りバイオプランター[遺伝子研究における人工生体の保管場所]が映し出される。 次に橋場は感知システムに対して右手のひらを翳す、再びピアノでも弾くようなモーションをした。空間にセッティングされたのはバーチャルキーポインター[BKP]という感知信号型のキーボードだ。 それを自分の手元空間に呼び出して認証コードを打ち込む。 前回の画面記憶配列で映像が並んだ。AIはプラント内部の一角に焦点を合わせた。 床上に現れたパールホワイトの艶やかなカプセルは上面一部を一瞬で透かした。透明な部分には優美な人間の横顔が映る。 スクリーンは横顔をズーミングした。瞼を閉じていても横顔は美しく凛々しい。 しっかりとした骨格、計算されたような稜線で魅了する鼻筋。 真っ白な頬の柔らかさは手に取れるようだ。 「ほんまに完璧や、これが人間やないと誰が想うやろのぉ……」女の顔には産まれたての赤子のように産毛が生えていた。
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