プロローグ

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小川のせせらぎに吸い寄せられたトンボの羽根を優しく撫でているそよ風。 誰もが癒されるであろう光景を目前にしても橋場薫の気難しい表情は小一時間、ほとんど変わっていない。 あまりにリアルな立体画像に、ふと…惑わされてもおかしくないはずであるが、橋場はひたすら答えの出ない自問自答を繰り返していた。 そして、自然な流れのままに右手のひらを正面のガラスに翳した。 室内をぐるりと囲んだガラスは特殊光体被膜でコーティングされている。特殊光体被膜とは、ナノ単位でしか見えない電子微生物が活きる有機回路のことで、繁殖し続ける微生物は互いの発する微量な電子をプラズマ変換させ増大させている。偶然と必然が折り重なり、現在の環境は創りあげられた。エヴァーダもイワクモも電子微生物(エレメントファクター)が成立させているのである。 特殊光体被膜は予め認識させておいた掌の形や生体情報などを感知すると微生物が常に発している電気信号がマザーコンピュータに伝わり、操作する側の動作パターンを瞬時に解読、必要な情報をガラススクリーンに映し出した。
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