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「――どうかしたのか?」
気付けば、私の足は止まっていた。
「な、なんでもない、です……」
でも、そんなことを口にする勇気はなくて。
俯きながら言葉を発すれば、少年はそうかと言って、再び歩き始めた。
それについて行くよう少し距離を置きながら歩いていれば、
「今夜、出かける予定あるか?」
不意に、そんな質問をされた。
思わず顔を上げれば、どうなんだ? と、再度聞かれてしまって。
「ない、ですけど……」
そう答えれば、少年はよかったと、安堵の声をもらした。
こ、これってもしかして……ナンパ、とか?
いや。でも真面目な人に見えるし、簡単にそういうことするようには――。
一人悩んでいると、少年が目の前まで近付いて来て――ぽんっと、頭に重さを感じた。
っ?! こ、これって……?
なぜか、私は少年に頭を撫でられていた。
男子とこうやって近付いたこともなければ、まして頭を撫でられるなんてことも初めてで――どうしたらいいのかと、心臓は緊張と戸惑いで激しく暴れていた。
ここ、こういう時って、普通はどうするの!?
ありがとう、って言うべき?
そ、それとも、嫌がった方がいいの!?
振り払うこともできず、ただわなわなとしていれば、
「今夜――家から出るな」
聞こえたのは、そんな言葉だった。
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