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「悪い、理由が知りたいんだよな? 理由は――君が気に入ったから、だな」
なにを言うのかと思えば、少年はそんなことを言ってのけた。
思わずドキッ! と大きく跳ね上がる心臓。でも、驚いたっていうより、恥ずかしいって気持ちの方が強い。
「り、理由になっていません……。ちゃんと、説明して下さい」
「オレとしては、ちゃんとした理由のつもりだったんだがな。――簡単に言うと、ここらを今夜、怖いやつらがうろつく予定になっている。変に因縁つけられて、絡まれたくないだろう?」
今度はちゃんと、理由らしい理由を答えてくれた。
怖い人たちだなんて……不良とか、そういうこと?
というより、なんでそんなこと知ってるんだろう?
もしかしたら、そういう人たちの仲間なのかと思ったら……少し、体が強張り始めていた。
「――オレは、違うから」
「? 違う、って……」
「多分、君が今考えてること。知ってるけど、オレは違うから」
「そう、なんですか?」
「あぁ。だから、出来れば怖がらないでほしいかな」
苦笑いを浮かべる少年。
どうやら、私が怖がってしまっているのをわかったらしい。
「とにかく、今夜は家でじっとしててくれ。――いいな?」
ぐいっと、距離を詰める少年。
思わず後退した私は、恥ずかしさのあまりまともに返事を返せなくて。何度も頷くことで、少年の言葉に答えた。
その反応が面白いのか、少年はくすっと笑いをこぼす。
「本当に分かったなら安心だ。――じゃあな」
最後にまたやわらかな笑みを見せると、少年は軽く手を振りながら帰って行く。
それに私も、その場で小さく、手を振りながら見送った。
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