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上体を起こし周りを見渡すも、それらしいのは見当たらなくて。
……気のせい、だよね。
神経が過敏になっているんだろうと思い、再び横になれば……ぞくっと、嫌な感覚が走った。
寒くもないのに、体が、勝手に震える。
怯えているような、理解できないなにかが、体の中を駆け巡っていく。
「この匂い――そっちか」
また、なにか聞こえた。
誰かがいる……と、姿なんて見えないのに、確信にも似たものが私の中にあった。
ドクッ、ドクッと、大きく脈打つ心臓。ここから早く逃げろと、まるで全身が警告しているように、その音は激しさを増す。
これは薬のせい。 違う。
これは考え過ぎ。 違う。
幾ら納得させようとしても、それが不自然だと、否定的な考えが浮かんでしまう。
この場から離れよう。そう考え付いた時には――もう、遅過ぎた。
「み~つけた!」
突然、目の前に現れた男性。
私と同じ目線にしゃがみこむと、なんとも楽しそうな笑みを見せた。
い、いつの、間に……?
近付いて来る気配なんてなかった。
それこそ、靴の音すらしなかったのに……。
あまりに驚いた私は、声も出せないまま、ただじっと男性を見つめた。
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