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?――――これ、って。
どこかで嗅いだことのある、慣れた臭い。
男性に向けている視線をゆっくりそらして見れば――口元に、液体のようなものが見えた。
もし、かして……。
それがなんであるのかを理解するのに、時間は要らなかった。
だってそれは、いつも病院で見慣れているもので――血だと、すぐ認識した。
「アンタ……いい匂いだね」
なんとも艶のある声で、男性は語りかける。
怪しく光る瞳は、淡い緑色を宿し。その中にはしっかりと、私の姿が映し出されていた。
淡く、さらさらとした茶色の髪に、中性的な顔立ち。あまりにも綺麗なその容姿から、視線をそらすことができなかった。
「…………」
「あれ、意識あるんだ? へぇ~珍しい」
まじまじと私を見つめ、更に近付いてくる男性。
咄嗟に体を動かし、逃げようと足に力を込めた途端、
「ふふっ、ムダだよ」
男性の両手が、私を囲っていた。
「そんな怖がらないでよ。ついでだから、ちょっと調べさせてね?」
口調は明るいものの、男性の視線はとても冷たくて。
射るような眼差しに、体は一層、震えを増していった。
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