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 それは今まで見た怪しいものではなく、とても、やわらかな表情だった。 「なんか、気分削がれちゃったなぁ~。アンタ、耐性でも付いて――?」  一瞬、男性の動きが止まる。  どうしたのかと思い、体の緊張が少し解けた途端、 「この匂い……そうか。近くにいるんだね?」  わずかな隙間もないほど、さっきよりも更に密着されてしまった。  近くにいるとか、気になることはあったものの、それを聞く勇気はなくて。  楽しそうに笑みをこぼす男性とは対照的に、私は怖くて恥ずかしくて……でも、なんだかこのまま放っておけないような。  色々な感情が入り混じっていき、心臓だけでなく、心も激しく乱れていった。 「ちょうどいいや。アンタ、オレと一緒にっ」 「離れろ」  射るような低い音声が、男性の声を遮る。  その声が聞こえたと同時。体にあった感覚は消え――強い風が、周りを吹き抜けていく。  なにが起きているのか知ろうにも、目を開けることが出来ないほどの強風。しばらくその場で耐えていれば、 「忠告は無駄だったか。――出るなと言っただろう?」  呆れた声が、耳に入ってきた。  !? も、もしかして――?  聞き覚えのある声。恐る恐る目を開ければ、そこには青い瞳の人物――予想したとおりの、少年の姿があった。 「掴まれ」  短い言葉を発するなり、少年は素早く私を抱えると、その場から一気に跳ね上る。家の屋根を軽々と越え、まるで、空を飛んでいるような感覚だった。
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