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「しっかり掴まれ」
もう一度言われ、私はようやくその言葉に従った。
すごい速さで駆け抜けているのに、目はやけに、その光景をクリアに脳へ伝えていく。
あまりの出来事に、瞬きするのも忘れるほど。今起きていることから、目がはなせなかった。
「――ここならいいか」
連れて来られたのは、少年と初めて出会った丘。
公園からここに来るには、結構かかるはずなのに……。
頭の中は混乱し、少年に色々聞きたくても、うまくまとまってくれなかった。
「――立てるか?」
心配そうに聞く少年。
それに私は、まだまともに言葉を口にすることができなくて。首を横に振るだけで、一人では立てないことを伝えた。
すると少年は、私を抱えたまま歩きだし、体を気遣いながら、そっと、ベンチに座らせてくれた。
「――――あ、あり、がとっ」
ようやく言葉を発したものの、まだうまく話せなくて。お礼の言葉は、なんともたどたどしいものとなってしまった。
「気にしなくていい。それよりも……首は、大丈夫か?」
どうしてそんなことを聞くのかと思えば、首を見せてほしいと、少年は頼んできた。
なにか……あるの、かなぁ?
理由が気になるけど、彼なら、変なことはしてこなさそうだし。
きっと大丈夫だと、自分でも不思議なほど安心感がわき、胸まである髪を片側に束ね、首筋をあらわにして見せた。
「――っ?!」
「大丈夫。オレは、何もしない」
指先が、そっと首筋に触れる。
くすぐったくて身をよじれば、それを逃げようとしていると感じたのか、少年は私の腰に手を当て、ぐいっと密着するように引き寄せられてしまった。
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