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「傷は無い、か。――あいつに、何かされなかったか?」
「だ、大丈夫……です。あ、あのう……さっき、のっ」
「悪い。話はあとだ」
急に、少年の雰囲気が変わった。
私の前に立つなり、ただじっと、真っすぐ前だけを見つめていて――それに私も、自然と体が強張った。
「――早かったな」
呆れたような声で、少年は言う。その視線の先にいるのは――。
「そりゃあこっちだって、同じことできるからね」
さっきまで一緒にいた、男性だった。
チラッと横から確認すると、その視線に気付いたのか、男性は私を見るなり、
「その子、こっちに頂戴よ」
と、笑顔で指差してきた。
途端、震え始める体。
怖くなった私は、ぎゅっと、目の前にいる少年の服を掴んでいた。
「……大丈夫だ」
なにか呟いたと思えば、少年の片手がそっと、私の手を包む。
じんわりと伝わる温もり。その温もりが、今の私にはものすごく心強かった。
「お前に関わらせるわけにはいかない。諦めろ」
「そんなルール無いよ? 調べるのは決まりなんだから、いくらアンタでも、逆らえないはずでしょ?」
さっきも言ってたけど……一体、なにを調べるの?
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