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「もちろん、薬を貰うためです」
「わざわざ私から貰わずとも、貴方たちには貴方たちの物があるでしょう?」
「そうなんですけどね。……あまり、効果がないもので」
小さく、諦めたような弱い言葉。
それに青年は、少年の今の状況を悟った。
だが、薬は簡単に渡せるものではない。先程の言葉に嘘が無いと信じたものの、まだ完全に信用しきれない青年は、
「そんなに薬が欲しいなら……その少女を護って下さい」
先程までの冷たい表情は何処へやら。笑顔で、そんな提案をした。
戸惑いがあったが、それで薬が手に入るならと、少年は快くその提案を受け入れることにした。
「イイですよ。それでアナタが協力してくれるなら」
「約束を守ってくれるなら、私も協力は惜しみません」
その言葉を聞き、少年は内心ほっとしていた。
これで、神出鬼没な青年を探さなくて済む。
それに、またあの少女に会えると思うと、妙に安心する自分がいる。まぁ、それだけ彼女が“好ましい”ということなんだろうが。
口元を微かに緩め、少年はそんなことを思っていた。
でも、それは人が普通に思うところの好ましいとは違う。少年が思う好ましいという表現は、“食事として”好ましい、という方が適切かもしれない。
「では、私はそろそろ休みますので。――お引取り願えますか?」
「なら、次に来た時は」
「分かっていますよ。次までに何とかしておきましょう」
その言葉を聞くと、少年は静かに姿を消した。
ビー! ビー! ビー!
途端、部屋にけたたましい音が鳴り響く。
それを聞いて青年は、受話器を手にする。言葉を二言三言交わすと、青年は急いで、外へ行く支度を始めた。
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