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 ◇◆◇◆◇  気が付くと、そこは病院のベッドだった。  看護婦さんの話では、夜中に家で倒れていたらしい。  家って……倒れたの、外のはずなのに。  自分の身に起きたことを、ゆっくりと思い出す。  なぜか公園に寝巻きのままいて、無理やり見知らぬ男の人に抱き寄せられて……それを、昼間の少年が助けてくれた。それから二人に共通するのが、尋常じゃない速さで走れることで――。  意外にも、意識を失う前のことを覚えていた。だけど、これが現実に起こったことなのかって思うと……体験した自分でも、正直疑ってしまう。 「……先生」  病室から出ようとする先生を呼び止め、私は疑問を口にする。 「薬をずっと飲んでいたら……幻覚って、見ますか?」  あれが現実でないなら、考えられるのはこれしかない。薬による副作用というのが、一番納得がいくし。  それに先生は、しばらく考え込んだあと、ゆっくり口を開いた。 「無いことも無いですが……貴方に処方している物には、そういった原因になる物は無いはずなんですけどね。――何か、気になることでも?」  そう言われ、私は少し間を置いてから、少年のことを話した。  軽々と自分を抱え、時間にして二十分はかかるであろう場所に数秒で行ったこと。そして――自分と同じ、病気だということを。 「それは……貴方の願望みたいなものかもしれませんね」 「私の……願望?」 「自分と同じ人がいたら。みんなより早く走れたらとか。――そういった無意識にあるものが、ストレスをかけている場合はありますよ」 「願望……」  もう一度、ゆっくり言葉を反復する。  今まで考えなかったわけじゃない。どこか割り切れないでいるのもわかってるつもりだったのに……。
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