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「そのことを、他に知っているのは?」 「ひと、……一人、だけ」 「……そうですか」  ソファーに腰掛け、青年は窓の外を眺めた。それに少年も、静かに黙ってその場にたたずみ、青年の出方を見る。 「――貴方のこと、少しは信用しても構いません。それには一つ、条件が付きますがね」  そして、こうなったらしょうがない。利用出来るものはしておこうと、青年は決心した。 「……条件、ですか?」 「貴方が会ったという少女。その子を護ってもらうことです。そうすれば、私はもう逃げたりしない。場合によっては、協力もしましょう」 「……嘘は、無いですか?」 「もちろん。貴方たちの長とは違い、約束は守る主義ですので」 「……分りました」  そう言うと、少年は青年に頭を下げ、あっという間に姿を消した。 「――今日は、厄日ですね」  少年がいなくなったのを確認すると、ぽつり、そんな言葉を呟いた。  いつもなら逃げるところだが、今回はまだその必要は無い。むしろこれからは、攻めに転じるべきかと――青年は、これからのことを思案していた。  ◇◆◇◆◇ 「――日向(ひなた)さん、聞いてる?」 「あ、ごめんなさい……。ちょっと、考えごとしてて」 「体調悪いかと思っちゃったよ。それで、隣の席の男子なんだけどさ」  ふとした時、あの日のことを考えてしまう。あれから彼らを見ることはなく、本当に幻覚だったのかと思う時もあるけど……私に触れた感触は、本物のように思えてならなかった。 「黒の眼鏡が印象的で、顔は普通って感じ。特にパッと目立った感じもない人で、髪がぼさぁ~ってしてて――あ、ほらほら。あの人」  倉本さんが、教室に入って来た男子を指差す。その男子が私の隣の席の人らしく、どんな人なのかを色々と話してくれた。
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