92人が本棚に入れています
本棚に追加
「とりあえず性格は真面目みたいだから、きっと日向さんもすぐに慣れるよ」
「教えてくれて、ありがとうございます」
「コレぐらい気にいしないでよ。じゃ、席に戻るね!」
入学式の時から仲良くなった倉本さんは、久々に登校して来た私に、真っ先に声をかけてくれた。正直、倉本さん以外の人は覚えていなかったから、こうやって話してくれたのが嬉しい。
「――久しぶり」
振り向くと、そこには隣の席の男子が立っている。久しぶり、と言う言葉に、私は頭を悩ませた。
「えっと……ごめんなさい。初めて、じゃないですか?」
その言葉に男子は微笑み、会ってるよ、と言い席に着く。
あまりにも普通に言われてしまい、少し呆気にとられてしまった。そのまま黙っていると、気遣ってか、相手のほうから話しかけてくれた。
「自分は、月神叶夜(つきがみきょうや)。これからよろしく」
「わ、私は……日向、美咲(ひなたみさき)です。よろしくお願いします」
名前を聞いても、やっぱりわからない。
どこかで倒れた時にお世話になった、というのがありそうな話だけど……考えても心当たりのない私は、なんとも言えない気持ちのまま、月神君を見つめていた。
「――そんなに見られたら、さすがに恥ずかしいな」
「! ご、ごめんなさい。……別に、変な意味とかなくて」
「大丈夫。――その内、思い出すから」
「? あのう……せめて、どこで会ったか教えてほしいんですけど」
ゆっくりと、疑問に思っていることを口にした。
それに一瞬、月神君の表情が変る。ふんわりとした雰囲気だったのが、ほんの一瞬だけ、別人のように変わった気がした。
「――気付かない、か」
「? なにか、言いました?」
「――いや、何も」
「? あのう。本当にどこでっ」
途端、授業開始を告げるチャイムが、私の言葉をかき消す。
聞くタイミングを逃してしまった私は、ひとまず、これから始まる授業に集中することにした。
最初のコメントを投稿しよう!