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少しでも隙があると、どうやらくっついてくるみたい。……気を付けないと。
「へぇ~。じゃあ美咲ちゃん、彼氏いなかったんだ? 珍しい」
当たっているだけに、なんと返していいものか困ってしまった。
やっぱり、この歳で一回も付き合ったことがないって、珍しいのかなぁ。
「中学はあまり通っていませんし……そんなこと、できる状態じゃなかったですから」
「じゃあオレが初ってわけか。嬉しいなぁ~」
「!? も、もう付き合ってるんですか!?」
「オレは構わないよ? むしろ大歓迎!」
「わ、私はよくないです……」
「えぇ~オレじゃダメ?」
ダメとかそういう問題じゃなくて……いきなり言われても、困っちゃうんだよね。
多分、からかってるだけだろうし。
あ、でももし本気で言ってたら――。
う~んと悩んでいれば、雅さんはくすりと、小さな笑いをもらした。
「急にはムリか。――ま、初デートはゲットしたみたいだからイイや」
語尾に音符マークでも付きそうなくらい、雅さんの声は楽しげで。こっちとしては、またどうやって返したらいいのか少し困ってしまう。
とりあえずこの話題を変えようと、今思い付いたことを聞いてみることにした。
「み、雅さんは、この辺りに住んでるんですか?」
話はなんでもよかった。このまま続けたら、恥ずかしさに耐えられそうになかったから。
「ちょっと遠いかな。そんなこと聞くなんて、家にでも来てくれるの?」
「い、行きませんよ! どうしてそんなことになるんですか」
「な~んだ、残念。――ってか、やっぱ美咲ちゃんイイね」
「? いいって、なにがですか?」
「まともにオレと話してくれるとこ。他人とこんなに話したのって、ホント久々なんだよねぇ~」
笑いながら言ってるのに、その表情は、どことなく影を帯びているような気がして……なんとなく、淋しさを感じた。
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