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それは、自分の境遇を思い出したからか。それとも、雅さんの気持ちを感じ取ったからか。
私たちの間には、少し冷たいような、それでいて、どこか心地のいい雰囲気が流れていた。
「ま、もちろんイイのは他にもあるけどね」
そう言って立ち上がると、雅さんは私の目の前に手を差し伸べ、
「では、家まで送りますよ――お姫様」
ニコッと笑みを見せながら、そんなことを言った。
「ふふっ。お姫様だなんて」
予想外の言葉に、私は思わず笑っていた。
でも、その手を握るのはさすがに恥ずかしくて。
「そういうことは、他の人にしてあげて下さい」
そう言って、雅さんのスキンシップをかわした。
「えぇー!? こーいう時は握るもんだよ?」
余程残念なのか、帰り道、しばらく手を繋げないことを拗ねていた。それが面白くて、こうして誰かと帰るというのが、とても新鮮だった。
「美咲ちゃ~ん。手、繋ごうよぉ~。オレ、触れてないと死んじゃうから」
「!? し、死んじゃうって……」
嘘にしては性質(たち)が悪いと言えば、雅さんは尚も必死に訴える。
「ホントホント! オレ、美咲ちゃんに触れてなきゃダメなんだって」
「? 私限定、ですか?」
「ん~他のヤツでもいいけど……それだと、色々問題あるからさ」
「? 問題ってどんっ?!」
「と、いうわけで――これも人助けと思って、ね?」
あっと言う間に、私の左手は握られていた。
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