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「待ち構える側というのは、とても新鮮だな」
和樹は生唾をゴクリと飲み込むと、さっきまでの倦怠感から一転し、殺意を持った鋭い視線で画面越しのその男を見た。
相変わらず、男は堂々とした態度でこの部屋まで歩いてきている。
遅くも速くもない速度。
表情や姿勢からも、緊張などは見られない。
自然体だ。
おそらく、よほどの修羅場を潜り抜けてきている人物なのだろう。
恐れるということを知らないのか、その足は淀みなくスムーズに進み続けている。
和樹の仕掛けた罠のすぐ側を通っても一切気にした様子が無い。
和樹も元々相対するまでは罠を発動させるつもりはなかったものの、ここまで堂々と無視されると不気味に感じる。
まるで、和樹と会うまでは自分に何も起こらないことを分かっているかのようだ。
「修羅場を潜り抜けてきてる……。さて、それだけで済む話なのかどうか……」
和樹は息を細く吐き出しながら、小さく呟いた。
蛇が出るか鬼が出るか……。
もしくはそれらをも超えたものが出るかもしれないが、もう後戻りはできない。
和樹の部屋はこの3階建てビルの2階の真ん中に位置しているが、この男の足取りから見るに、それすらも分かっているのだろう。
和樹は覚悟を決めると、スクッと立ち上がる。
男は、既に和樹の部屋のすぐ近くまで来ていた。
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