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和樹はそう言って、部屋の奥へ男を誘った。
イスをカラカラと引き、部屋内にたった一つしか無い机の前に持って来る。
本来のイスの位置とは真反対、足を入れるスペースの無い形となってしまったが、その辺りは致し方ない。
元々、この部屋は和樹以外の人間が出入りすることの無い部屋なのだ。
客人用のスペースなどもちろん作っていない。
必然的に、部屋内の奥にたった一つ置かれた机をせせこましく使うしかないのだ。
しかし、
男はそんなことは一切気にした様子もなく、ニッコリと微笑む。
「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えてコーヒーをいただきます」
男はそう言うと、和樹の用意したイスに腰を下ろした。
やはり、堂々としている。
そして落ち着いている。
何故ここまで落ち着いていられるのか、和樹には不思議だった。
秘密主義な和樹の個人情報を取得しているとはいえ、それはあくまで知識・情報の話だ。
こうして顔を合わせてしまえば、その情報の優位性は暴力という形であっという間に崩れ去ってしまう。
和樹自身、そうするつもりでいる。
それを読めてない愚か者とも思えないこの男の態度に、和樹はやはりで首を捻るばかりだ。
腕によほどの自信があるのか、それとも、こちらがそうはできなくするためのカードを何か持っているのか。
この男の意図する所が、和樹にはまだ見えてはいなかった。
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