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「とても美味しいですね。大したものでないなどと人が悪い。これ、とても高価な豆を使われているでしょう?」
男の言葉には邪気がなかった。
典型的な何も考えてないそれのように聞こえた。
しかし、
和樹は内心で首を横に振って改めて思考を巡らす。
今のこの不可思議に過ぎる展開が、それを強行させる。
なんせ、こうして男がここに来たということは、それほど訳のわからない事態なのだ。
このビルの所在や和樹の個人情報を知っているということももちろんそうだが、その上で、人がこのビルに来る必要は全くない。
和樹に何か要求を出したいにしても、そんなことなら会わなくても良いのだ。
向こうは和樹のプライベートの携帯番号すら知っている。
ならば、
公衆電話なり他人の携帯なりを使ってその携帯にかければ、それは充分達成可能なはずだ。
こうして姿を見せて交渉の場に出て来ることは、無駄なだけでなくリスクばかりが高いように思えてならない。
その上で、この余裕の落ち着きぶりだ。
何かあるのだろう。
何か、そのリスクをカバーする切り札と、電話でなく会わなければならないような理由となるものが、男にはあるのだろう。
和樹はニコニコスマイルを維持した表情のまま、そんなことを考えていた。
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