【第一章】来訪者

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「御馳走様です」 男はニッコリと微笑んで、短くそれだけを言った。 和樹は一礼すると同時に表情を隠し、手にナイフを忍ばせる。 まだだ、と自分に自制をかけながらも、思考は徐々にその方向へ進み始めていた。 「いやー、しかし、大したものですね。まだまだお若いのに、ずいぶんしっかりした来客対応だ。とても17歳には思えませんね」 和樹は眉毛をピクリと動かした。 年齢を言った覚えは……無い。 「さらにはこのビルの所有自体もその若さでは普通、到底あり得ませんよね。迷った言い訳をするつもりではありませんが、このビルの前に来た時は自分の感性を疑いましたよ。間違ってしまったかな?と何度も確認しました」 和樹は眉毛をさらにピクピクピクと揺らす。 ……どうやら、男の方も話を先に進めたいと思ってくれてるらしい。 和樹もこの茶番のような雑談に飽き飽きしてきていた所だ。 非常に都合が良い。 和樹は表情を笑顔で武装して、口を開いた。 「ありがとうございます。あなたのような明らかに裏の世界で生きてらっしゃる方にそう言っていただけるとは、光栄の至りにございます。ところで、あなた様はどのようにしてこのビルのことをお知りになったのですか?」
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