【第一章】来訪者

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「く……っ」 和樹は男が何を言っているのか分からなかった。 この腕もおかしなくらい力が強い。 振りほどけない。 こんな不自然極まり過ぎた体勢なのに、力の強さは常人のそれを圧倒的に上回っている。 身動きすらも取ることができない。 制圧していたはずなのに、あっという間に制圧し合っている状態に持ち越されてしまった。 男の逆手になった手は、和樹のコメカミを強く押し続け、その力が抜ける気配は一切見えない。 男の腹からは血が流れ続けているはずなのに、その影響も全く見えない。 何がどうなっているのかさっぱりだった。 こんなビックリ展開は初めてなのだ。 人間技じゃないにも程がある。 だが、 混乱してる中でも分かったことはある。 男はさっき、「待っていた」と言っていた。 つまりはそういうことだったのだ。 男は、和樹が武力行使に打って出るのをずっと待ち続けていたのだ。 それが一体何のためかは分からないが、『嵌められた』。 その事実だけは、よく分かった。 「くそ……っ」 和樹の手から力が抜ける。 コメカミをこれほど強い力で押さえつけられていては、そうなるのは当たり前だった。
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