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ピピッピピピッ
それはとても小さな音だった。
それは非常に微かな警告音だった。
和樹の部屋の壁に設置されたランプから、その小さく短いアラームは鳴っている。
和樹は体を震わせると、跳ねるように体を起こした。
「……来たか」
第一声。
厳しい鋭さを孕んだ声を出す。
眠気などあっという間に吹き飛んでしまった。
意識が脳が体が火を吹いたように活動を再開し、表情はものの一瞬にしてひどく険しいものへと変わる。
仕事の時間がきたのだ。
空気が変わる。
呑気に欠伸まで溢れるほど穏やかだった室内に、突然にして緊張が張り巡らされる。
待ち人が、ターゲットがやって来たのだ。
このランプは、元々ビルに備えついていたものではなく、和樹がビル購入後に後発的に取り付けた物だ。
予めこのビルに通じるルート全てにセンサーを取り付けており、そこに人が引っ掛かれば光る仕組みになっている。
この辺りは元々人通りが少ないため、ランプが点滅することなど滅多にない。
他の住民の可能性は低いだろう。
和樹はそのランプに連動したパソコンに目を向けると、その位置をすぐに確認する。
事もあろうに、それはこのビルの正面入口だった。
他ビルから下水道、屋上まで全てを網羅していたにもかかわらず、相手はまるで作為を行わずして真正面から現れた。
和樹は数え切れないほど沢山ある監視カメラの中から正面入口のものをアップすると、その相手の外見の情報を確認する。
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