距離感

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そーっと足音を忍ばせてリビングに通じる扉の前まで来ると、案の定聞こえる彼の泣き声。 声を押し殺しているのだろう、耳を澄まさなければ聞こえないくらいの小さな声。 俺は扉の前に腰を下ろす。 本当ならば今すぐにでも中に入って、抱き締めたい。 頬に伝う涙を拭ってあげたい。 でも、俺にはそれは出来ない。 何年も一緒にいるのに。 いつでも頼って欲しいのに。 彼はたったの一度も、俺の前で涙は流さなかった。 きっとこれからも。 心を開いていない訳じゃない。 お互いに愛があるのは間違いない。 それでも彼は俺に弱さを見せない。 それは、俺も同じ。 .
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