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「昔、飼っていたんだよ、中学から高校の頃まで。三毛猫だった」
「……やっぱり。仔猫の扱いをよくご存知だと思いました。あら、でも、私が会ったころにはいませんでしたわよね」
「死んだんだよ、母が入院した翌日に。玄関先に転がっていた」
秋良は目を瞬かせた。
そして、少し前の、家の増改築時のことに思いをはせる。
築年が彼の年齢を上回る自宅へ手を入れるにあたり、建築士に図面を書き起こしてもらった。それにダメ出しをし、一部の変更をさせたのは慎一郎だ。
問題になったのは庭に咲く、みかんだかキンカンだか柚だかわからない、柑橘類の花木の処遇だった。
建築士はばっさり根元から動かすか片付けてその分間取りを広げましょうと提案し、それは断じて受けられないと間取りがあまり広くならないのを承知の上で断固として譲らなかったのは慎一郎だった。
結果、柑橘の花木は残り、家は希望より少し狭い増築で終わった。
「じゃ、あの木は」
「どこのあたりかはもうはっきりしなくなっているが、その下に埋めたんだよ」
彼の母は、彼が高校に入ってすぐの秋に病気で亡くなっている。入院してからあっという間とのことだったそうだ。父親不在の時に付き添って仕度を整えたのは彼だという。
母の入院と猫の死。
高校生の彼には辛い出来事だったはずだ。
「可愛い子だったんですか? 三毛なら、メスだったんですよね。何がきっかけで?」
「あの猫は……都というんだが、母が拾ってきたんだ」
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