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「心に傷を負ってしまったのね」
秋良は言う。
「かわいそうに」
「僕は、そんなことはないけどね」
「あら、あなただなんて言ってません。子供たちのことです」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
最近、妻は少し冷たい。
ホントは、慎一郎さんこそ傷を負ってるのだろうけど。そこには触れずに秋良は続けた。
「頭ごなしにダメだ、の一点張りなんですもの、子供といえども小さな人格を持つ存在として懇々と言って諭せば伝わる、なんて普段は仰っていて、そのとおりに子供たちに接しているのに。あの子たちがショックを受けるのも仕方がないと思うわ。お父さんに理由なく一方的に『ダメだ』って言われたのは、おそらく生まれて初めてのことだと思うのですけど」
「うーん」
慎一郎はスプーンを持ったまま、反論できない。
「ねえ、慎一郎さん」
「だめだ、誰がなんと言おうと、だめなものはだめ。ペットは、……猫はだめだ。今日は一家全員そろっているが、君はフライトで、自分も所用で家を空ける時がある。子供たちは預け先があるし、僕でも面倒がみれる。住人が家をあける機会が我が家はよそより多いだろう、生き物は飼って置けない。それに、猫はトキソプラズマがつく、君は……」
「ご心配には及びませんわ」
秋良の実家は、娘が嫁いで以降猫を飼い始め、今では猫屋敷となっている。彼女が使っていた部屋は猫部屋になった。行く度に猫の数が増えているような気がするのは、多分、気のせいではない。
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