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「ですから、この子が大きくなったら、今日みたいなことがありましてよ? きっとさっきみたいに言ってしまうでしょう? あなたは『嫌いだ』って言われる度に傷付くんですわ」
スプーンでにんじんをつんつくつついていた彼は、秋良の目にもはっきりとわかるくらいに感電したかのように身体を震わせた。
どうしまして? と見た彼の脚には、でっかい毛玉がはりついていた。
にじにじと、子供たちがよじ登るように、仔猫も這い上がろうとしている。
「まあ、いつの間に」
「……ここまで来たというんだ……」
慎一郎は渋面をさらに深く刻む。
「外へ出してなかったのか?」
「夜はもう遅いですもの、かわいそうでしょ? 今日はかんべんしてあげて。ねえ、本当にペットはだめなんですの?」
その問いには答えず、彼は無言で夕飯をかき込んだ。
「どうしてもというのでしたら、母に頼んでみます。多分、引き受けてくれると思います。まさか、子供たちに本当に拾ったところへ戻させるわけにはいかないじゃないですか、けど……」
そちらの方こそ気が進まない。きっと秋良の母のことだ、猫を理由にねちねちと、言ってくるに違いない。「私になにかあったら、あとはヨロシク」とばかりに猫たちがやってきたら、我が家は次世代猫屋敷になってしまう。
「ドイツのことわざに、子供が産まれたら犬を飼えといいますわ。小さい内は子供を守り、成長すると遊び相手になり、思春期になったらその身をもって命の大切さを教えると。犬も猫も変わらないでしょ。ペットを飼うのは子供たちの情操教育上も悪くないと思うのですけど……。ねえ、なぜ、猫はだめなんです? ここまで意固地になるのですから、理由があるのでしょ?」
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